A Vase of Flowers
『タヒチの花瓶の花』


Paul Gauguin | A Vase of Flowers | NG3289 | National Gallery, London

ゴーギャン(1848年6月7日 - 1903年5月8日)の作品で、1896年に制作され、1891年と1895年にタヒチへ移住した時期に描かれたタヒチを題材にした作品です。

ウジェーヌ・アンリ・ポール・ゴーギャンは、1848年パリに生まれた、フランス人画家です。当初は、株式仲買人でしたが、1870年代に芸術家になることを決意します。印象派の画家たちと交友を深めていきます。

その後、やがて彼らの美学とは距離を置き、より象徴的で精神的な芸術表現を求めるようになります。冒険的な気質を持つゴーギャンは1891年にフランスを離れタヒチへと向かったのでした。

サマセット・モームは、実在の画家ポール・ゴーギャンを小説『月と六ペンス』でモデルにしてます。物語は、画業のために生活を捨てて渡ったタヒチで不遇の死を遂げ、後に名声を得たゴーギャンの生涯を、語り手の視点から描いています。(Amazon.co.jp: 月と六ペンス : サマセット モーム, Maugham,William Somerset, 瑞人, 金原: 本

ゴーギャンは生涯で2度、南太平洋のタヒチに滞在し、その土地の豊かな文化や自然をテーマに多くの作品を生み出しました。

ゴーギャンは1895年、2度目にして最後の滞在のためタヒチに到着した直後、この静物画を描きました。

エキゾチックな赤いブーゲンビリアとハイビスカス、白と黄色のプルメリア、白いティアレ、そして大きな青い葉が、暗い色の土鍋から溢れ出ています。少し見頃を過ぎたように見え、花がテーブルの上に落ちているものもあります。

白いティアレ・タヒチはタヒチの国花であり、クチナシの仲間です。甘く強い香りが特徴で、タヒチアン・ガーデニアとも呼ばれます。来客のおもてなしや結婚式で使われるほか、レイ(首飾り)や髪飾り、石鹸などの土産品にも利用されます。


ティアレ・タヒチとは|育て方がわかる植物図鑑|みんなの趣味の園芸(NHK出版)

白いティアレ・タヒチの通常花弁は6~7枚ですが、稀に8枚の花弁で咲くこともあり、タヒチでは「花弁が8枚の花は幸福を運んでくる」という四葉のクローバーのような言い伝えがあります。

しかし、ゴーギャンが興味を持ったのは、園芸的なディテールではなく、装飾的な形の模様と、金色の背景に赤、クリーム、青が繊細に織り交ぜられた色彩のおりなすパターンでした。これは、ゴーギャンの綜合主義(サンテティスム)の考え方が反映されています。

ゴーギャンはこの豪華な花束を、実際の花の配置を習作として描き始めたのかもしれません。しかし、タヒチの人物画と同様に、夢のような雰囲気を醸し出すことから、想像によって完成させたと言えるでしょう。

完成後の1898年、ゴーギャンの芸術を高く評価していた画家エドガー・ドガがこの作品を購入しました。

1899年、花屋のアンブロワーズ・ヴォラールがゴーギャンに花の絵をいくつか売るよう依頼した際、画家は「数枚しか描いていません。自然を模倣するわけではないからです。今は以前よりもずっとです。私の場合、すべては私の豊かな想像力の中で起こります。」と答えたということです。

この作品は、現在はロンドンにあるナショナル・ギャラリーのコレクションの一部となっています。

なぜ、この絵がコレクションに加えられたかは謎ですが、モームの小説「月と6ペンス」では、ゴーギャンをモデルとして書かれている主人公のストリックランドは、ロンドンでの安定した仕事、温かな家庭、そのすべてを捨て、一路パリへ旅立った男が挑んだことは・・・となっています。天才画家の情熱の生涯を描き、正気と狂気が混在する人間の本質に迫る、この小説のおかげなのかもしれません。



コメント

このブログの人気の投稿